生成AI・大規模データ処理の普及により,情報基盤を支えるデータセンターの消費電力は急増しており,
世界の年間消費電力量は2030年に数1000 TWh規模に達すると予測されています.これは,日本の年間消費電力量の数倍に相当します.
急激な電力増加の主因は,AI処理に伴う莫大な計算・冷却エネルギー消費にあります.例えば,生成AIによる画像1枚の作成は,
スマートフォン1台の満充電に匹敵するエネルギーを消費するとの試算もあります.このような情報爆発社会を支えるためには,
情報処理ハードウエアそのものの革新が不可欠であり,とくに消費電力と性能を両立する新原理デバイスの創出が強く求められています.
本研究室では,以下の研究を通して,AI・低炭素社会を支える情報処理技術の学術基盤を構築するとともに,世界に通用する人材育成を行います.
現在,コンピュータ内の短距離伝送には電気配線が主流ですが,処理速度やメモリ容量の増大に伴い,配線抵抗や配線間容量に起因するRC遅延,ならびに電力消費の増大が深刻な課題となっています.これに対し,RC遅延がなく,配線間容量の充放電に伴う電力消費も生じない光配線(光インターコネクト)が,
次世代情報処理技術を支える鍵として改めて注目されています.
しかし,光配線実用化の大きなボトルネックの一つが,トランジスタやメモリなどの電子デバイスと光配線とを接続する電気–光(E–O)信号変換です.
現行のE–O変換素子は消費電力が比較的大きく,とくに短距離配線では,光配線に置き換えてもシステム全体としての消費電力低減につながりにくいという課題があります.
そこで本研究室が注目しているのが,励起子をキャリアとする励起子トランジスタです.
これまで,トランジスタ構造をE–O変換に活用する試みはほとんどありませんでした.
一方で,トランジスタは微細化に適し,微小な入力で大きな出力を制御できることから,本質的に小型化・低消費電力化に適したデバイス構造です.
勿論通常のトランジスタではE–O変換は出来ませんが,本研究室では,電界によって輸送を制御でき,かつ光と強く相互作用する励起子をキャリアとして用いることで,
トランジスタ構造による新しいE–O変換の実現を目指しています.
本研究室では,この励起子トランジスタの実用化に向けて,材料・プロセス・デバイスの3つの階層から研究開発を進めています.
また励起子トランジスタ以外にも,本研究室ではフォン・ノイマンボトルネックの解消を目指した励起子型・光メモリの提案,AI向け不揮発性メモリの開発,
さらには,AI時代の電力需要増大を見据えた半導体型可視光光触媒によるグリーン水素生成技術の開発にも取り組んでいます.
これらの研究は,AI社会および低炭素社会の実現を支えるキーテクノロジーへと発展すると期待されます.